往復書簡9通目

書簡 9通目 〜ユーザーとの距離と膨大なストック〜
from 石井力重

死者の書の使いどころへのコメント「あぁ~、なるほど」とひざを打って、拝読していました。

イメージ的にはリリーフピッチャー。やや変則のサイドスローで試合の流れを断ち切ってくれる頼もしい存在

・一般的に出てくるようなフツーのアイデアからポンと離れたい時
・煮詰まった時
・何となく「イケそうな気はするモノの、具体的なアイデアが浮かばない時」
・自分たちと「正反対」のアイデアが欲しい時

そうですよね~、アイデア発想法にはアート系とロジカル系の技法がある、とドクターコースでの研究者時代におもっていましたが、まさにアート寄りのものは「御しがたいが、予想し得ない混乱あるいは心の混沌がもたらす何かを引き起こすなぁ」という印象をもっていましたが、著者かとうさんにそこを明文化していただいて、“まさに、まさに。”と、拝読した次第です。

企業内研修や企業内でのチームにおいて、かなり困っている状態ではじめればいいじゃない、という加藤さんのアドバイスもまた、なるほどなぁ~と。

昔、ある交渉ゲームを体験した時に思いました。新規で奇妙な条件での交渉を提示し、それが契約として成立するには「相手によほどの余裕がある時」か「相手が困窮している時」だけだ、と。

ゲームじゃなくリアルで、交渉条件ではなく発想技法、と置き換えて考えてみると良く分かります。前者(つまり、余裕がある時)はチームで研修を受講するような場面。後者(つまり、困窮している時)はチームがアイデア発想に行き詰っているような場面。

そう考えますと、死者の書という発想技法、あるいはそのほかの、新しい奇異なもの(と一見感じられるもの)を、活用するべき時宜をとらえるのがうまくなりそうです。

そして、個人的な思いですが・・・・アート寄りの発想技法が、日本の企業内研修で創造研修がおとなしく収まってしまいがちなところを、ぐいっとクリエイティブ・ジャンプの楔を差し込む契機になればいいなぁと、思います。

さて、いただいたご質問への回答へ移ります。

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数多くのアイデアという選択肢から、「これは!」のアイデアを選ぶに必要な要素とはなんなのでしょうか。

若い人、経験の浅い人は「選択眼」をもてるのでしょうか? それとも直観で好いのかしら?

コツ、ってあると思うけど経験の浅い人たちには見えないよ? と正直思いつつも、気持ちはよく分かるんですね。実際、10年前ほどのんびり成長してゆく場合でもないでしょうから。石井さんのお応え如何。
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これはまた、興味深い問いを、ありがとうございます。

まず、アイデアのターゲットユーザが自分とおなじ層であるか、無いかで、大分違ってきますよね。

例えば、ですが”30代前半、地方都市に住み、余暇の時間を大事にしているわりと仕事熱心なサラリーマン”に向けたカバンを企画しよう、という場面であれば、アイデアワークショップの参加者がその属性に極めて近い人ならば、「もう自分の感じるまま、いいなと直感的に感じるものでOK!」だと感じています。

そういうターゲットユーザと自分が近いこと、というのは、アイデアワークにおいては、ブレストの奥のほうまで行ければ喜びの喚起すら沸き起こるような、すばらしいストレス発散にもなりますし、アイデア自体の有望度もかなりのものがあります。

次は、ターゲットユーザに程遠い場合、について。

あくまでも、石井のアイデアワークショップのたくさんの事例の中からの認識でありますが、その中で見出してきたものを書きますと、アイデアの扱いのうまい人たちの心理世界を記述してみますと、こんな風に見えます。

(1)まず、頭の中に数百人の多様な小人が居る。
(2)そこにアイデアをポンッと投げ込む。
(3)そうすると、いろんな人がそっぽ向いたり、興味を示して近寄って来たり。その中でも特に、そそられているような人の顔をよく見て、彼らがどんな仕草をするのかをじっと見る。
(4)次第に『ああ、このアイデアは、◎◎な人だったらかなりうれしいアイデアかも。更にいえば、こういう風な具体スペックを持っているとかなり訴求するかなぁ』という言葉が口をついて出てくる。

いろんな場面でアイデアワークをやると、その場には、たいてい一人か二人、そういうアイデアの感度が無茶苦茶高いひとがいて、彼らの心理世界を洞察していると、いろんなリアル人物を頭の中にストックしていて、その人がどう想うかを、即座に、シミュレーションして、その場を臨場感をもって語ったりしています。

でも、そんなの特殊でしょ? ・・・そうですね、、、そういう人に誰もが簡単にはなれなませんよね。

彼らは、どうやって、数多の中に、現実の世界の人物牧場を持っているのか、知りたいと思って、よく僕はたずねます。

うっすら見える共通点は、「いろんな人と話すこと。その前に、いろんな人に興味を持って見ていること。話せるチャンスを楽しんで話をすること。」でした。

彼らと行動すると、平均的な人に比べて、多様な人とひと手間かけて、しゃべるんですね。移動のタクシーの運転手さんに。お店でもちょっとした隙に店員さんに。たまたま隣のグループになってぶつかってしまった人としゃべることも。相手がついつい雑談でしゃべるその人固有の情報や独特の感じ方も自然に引き出して。特に質問項目があるわけでもなくないようです。

面白がりの才能がある。だから、いろんなことを引き出していける。

切り取った生身の人間の感性や情報を、あいまいに、しかし、大量に、心にストックしていく。

そうしていざ、アイデアワークの場面では、自分自身はターゲットユーザに程遠い場合、そういう「数百人の心の仲の小人」が機能していくのかもしれません。

ちなみに、加藤さんとお酒を飲みに行った時、かなりお酒を飲んでいても、ものすごくきょろきょろいろんなモノをみていました。とぎれなく、目の前の話もして。加藤さん自身はそういう仕草を自然にされていて、膨大なストックを持っている人の行動特性が色濃くみられました。

以上です。

さて、加藤さんに、質問です。

私のところ(アイデアプラント)では、発想ツールをよく作ります。
その開発プロジェクトにおいて、よくブレストをします。
ブレストを助ける道具を作るためのブレスト、というのは、また特殊な感じです。
相当に深く長くやります。深夜に及ぶようなことも日常茶飯事です。

その時に、私も、他のメンバーも、想うのは
「自分のイマジネーション空間に浮かんだ着想=生まれたてのアイデア」を伝えきれないもどかしさ。
そのオーラというか、香りというか、言葉で切り取って行った時に拾いきれないものがあります。
お互いに、そういうものを出来る限り汲み取って、うけとって更に展開してゆこう、と努力するのですが、それでも、
「ああ、これの本質を伝え切れなかったなぁ」と身悶えることも、しょっちゅうです。

質問です。

「アイデアの香り、あるいは、オーラ、のような、良く目に見えないもの、文字で書き取れるものの外にあるものをブレストの場面で伝えたい。うまいやり方はありますか?」

石井力重

(2015年6月23日)

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石井力重さんと加藤昌治の「往復書簡」

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「発想法の使い方」の制作に一緒に携わってくれた(※)石井力重さんと、この一冊を起点にした疑問や質問をお互いにヤリトリしてみようという試み。「これだけ一緒に議論してたとしても、結構わからないことあるんでしょうね?」がキッカケです。

素直に対談、みたいなやり方もあるんだと思うのですが、今回は「往復書簡」スタイル。ヤリトリの間にある程度の時間を置き、答えあるいは応えをそれなりに推敲するーしっかり考え、考え直すーことで、当意即妙のヤリトリとはまた違う発見があると思ったからです。