往復書簡7通目

書簡 7通目 〜大量の人々の直感、社会知性〜
from 石井力重

加藤さん、ありがとうございます。

一つ目のご質問(石井の問いの答えになっていますか?というもの)ですが、お尋ねしたかったこと以上に示唆深く返していただきました。アイデア創出の場に、どんな人を組織から引っ張り出してきたらいいだろう、という問いに対して、(いろいろな観点もあるけれど、やっぱり)リーダーや(テーブルごとの)ファシリテータ人材、だよなぁと、拝読しながら思いました。

二つ目のご質問(リーダーの役割、および、アイデアの選び方は、リーダーに一任か全員投票か?というもの)ですが、ケースバイケースの多様な分岐を含みえる話になりますが、本当の収束段階では、基本的に「リーダーに一任」にしています。

ただ、それにもいくらかのアレンジがあります。

以降、ケースを絞って具体的に書きたいので、創出したアイデアを具現化(試作開発、商品化にトライ)する、という企業内アイデア創出活動を前提に書きます。
この場合、リーダーは初めから決まっている、もしくは、自然に決まる、のどちらかです。詳しく書きます。

ある部門の技術シーズを持ち込んだ、とします。多様な部門から集められたいろんなメンバーで形成するチームには必ず一人、そのシーズを有する部門から人が来ている、という座組みにします。
彼らは創出したアイデアを、翌日以降必死に汗かいて、作ってみたり、使ってみたり、と具現化の努力をします。そういう具現化努力をする人が、アイデア創出の場ではリーダーとなり、アイデアセレクションの段階では「これで行きましょう」と決めます。

やらない人が決めても全くダメ。具現化の努力をする人、汗をかく人、が意思決定者でなければ、具現化への力がえられません。

ただし、アレンジ版として、合議してもらって最後はリーダーが追認、というのもありにしています。

理由は、チームの発想推進力を引き出せるからです。
リーダー以外の人は、アイデアワークという航海において、船の漕ぎ手です。リーダーが分岐点で選ぶ方向が全く魅力的でなければ、力を出しません。

人は自分が面白いと思って選び取ったものに対しては、高い価値性を感じ、その結果アイデアを発展洗練させていくための面倒な知的作業もするようになります。

リーダーとしては、オールの漕ぎ手たちがぐいぐい漕いでくれる方向に舵を切って、できる限り遠くまで進んでみよう、という推進力重視のかじ取りも、ありですよ、とそういう場ではお伝えしています。

ただ、具現化できないような方向に進みすぎても、創出アイデアを活用できないのでバランスがいります。
なので、皆に評価してもらった後のリーダーの“追認”、の部分は、“完全に追認”、とせず少しアレンジして「ごめん、いろいろ考えると、皆が1番にしたそれじゃなく、4番のを選びたい」と、選択の裁量権を使わせてもらう、というぐらいのやり方が最もいいかと思います。リーダーとしての度量とか人間力がだいぶ要りますが。

次に、グループでの話しから、スケールを変えて、大きな場、の話。

アイデアソンで40人、100人といるような場であれば、皆で投票をすることはよくやります。アイデアスケッチをテーブルに広げて、めいめいに「面白い、広がる可能性を感じる」というものに☆をかいてもらう、というものです。かとうさんがおっしゃるのはこの部分かとおもいます。そうです、みんなで投票方式、実によく、やっています。

これは、一つの仮説をベースにしています。

アイデアという未成熟なもののポテンシャルを精査するのはとても難しいことで一人の人がやるには限界がある。しかし、当たりはずれもあるけれど、人間には直感的に「あ、これいいかも」を感じる力があって、一人二人の直感では、良いものを検出する力は弱くとも、大量の人が直感的に感じるそれを重ね合わせていくと、未成熟なアイデアでも、潜在的に魅力のあるものを可視化できる。そういう仮説です。

この仮説がどこまで確からしいのかを見極めるには今後もっと事例が必要なのですが、上位案の中から厳選したものをコンセプトテストに持ち込むと顧客の反応が良い、ということはよく報告されています。

ただし、このやり方では、賛同者は少ないが突破力のあるアイデア(ダークホースのアイデア、と私は呼んでいます)は、拾い上げられません。

なので上位案だけに絞りきらず、「☆の多さに関係なくアイデアを推薦してもらう」ということもします。

たとえば、参加者が40人ぐらいいたなら、☆の多いアイデアスケッチ上位10個を紹介した後、ダークホースのアイデアは場から2個から3個ぐらい拾います。

たくさんの人がいる場で、なおも誰かに推されて出てくるものは、面白いです。
あるいは、実際に開発をする部署の人たちに、数案、推してもらう、というやり方の時もあります。確度の高そうなものも拾われますが、意外ととんがったものが拾われたり。

そうして、10+3アイデアを張り出し、各人に好きなところに移動してもらいチームビルディングをすると、ダークホースのアイデアのチームが最後のプレゼンで良いアイデアに発展していたりもします。(とがったアイデアというのは、表現が磨かれるまでに時間がかかり、未成熟な段階で埋もれてしまいがちなのかも、と大量のアイデアワークの中で私は感じています。)

以上、こんな風にして、全員投票を使っています。
ちなみに、この方式、CPS(Creative Problem Solving)の中のハイライト法というメソッドを日本テイストにして実施、発展させてきたものなのですが、大きく実効性をもった背景には、かとうさんとの若いころの出会いがあります。アイデアスケッチ、という「単純にかけて、本質をかこうと思うと真ん中の部分はずどん、と十分表現できる」メソッドがあるから、ハイライト法をイベント的に何十人でも実施できています。たぶん、これ、開発企画書に起こしてもらってハイライト法をやったら、一人が数案見たらギブアップになっちゃいます。大量の人々の直感を使う、という、いわば小さな社会知性を使う方式はとれなかったでしょう。
加藤さんの新刊(発想法の使い方)では、アイデアスケッチについてのくだりいいですね。経験のない人でも「あ、そんな感じでいいんだ」と、使い方がわかる。

では、石井から加藤さんに質問をば。

加藤さんの『発想法の使い方』では、「死者の書」が取り上げられています。ヒエログラフを用いて、論理的には出てこなさそうな、大きなCreative Jumpをもたらす方法ですね。
メソッドのテイストが怪しげで、思考展開も非常に複雑で説明しがたいものだったりして、ビジネスマンたちの多い場で実践するにはハードルが高いのではないかしら、と思っていたのですが、以前、京都D-schoolで実施した時には、大企業の開発技術者さんたちが、そこから大きく思考を回遊させて新しい着想を捕まえていき、「おおー、これはすごくアリなんだ。」と思ったことがあります。
質問です。このメソッドを使うとしたら、使うのにより向いている場と、あまり向かない場があるとするならば、それはどういう場でしょう。

読者にとっても、「チームで試してみようかな」「でもな・・・、ちょっとアートっぽいメソッド過ぎない?」という躊躇は当時の私と同じくあると思います。その判断への手助けになる情報をもらえたら幸いです。

ヘルシンキの隣のEspooより

(2015年5月21日)

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石井力重さんと加藤昌治の「往復書簡」

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「発想法の使い方」の制作に一緒に携わってくれた(※)石井力重さんと、この一冊を起点にした疑問や質問をお互いにヤリトリしてみようという試み。「これだけ一緒に議論してたとしても、結構わからないことあるんでしょうね?」がキッカケです。

素直に対談、みたいなやり方もあるんだと思うのですが、今回は「往復書簡」スタイル。ヤリトリの間にある程度の時間を置き、答えあるいは応えをそれなりに推敲するーしっかり考え、考え直すーことで、当意即妙のヤリトリとはまた違う発見があると思ったからです。