往復書簡5通目

書簡 5通目 〜発想エンジンを点火する〜
from 石井力重

前回冒頭の「移動距離に比例して疲労が蓄積すると聞きました。」について、
ですが、学生時代に旅行部にいてそれが今は役に立っていまして、ドアに鍵さえかかればどんな宿でも僕は熟睡できまして、便利な経験をつんだなあ、と今にして思います。また、こういう仕事していておもうのですが、移動距離に比例してアイデアが出る、と。これは、最近、異口同音にそう言及する人がいるので、へー、やはりそうか、なんて思っていました。

“「はい、次はコレやって」「その次はコレ」とワークを淡々と重ねて“と” 完璧なマニュアルになってしまうのも、ちょっと違うと思うので、あえてやや曖昧、というか乱暴にワークに入っていくパターンもあります。“というのは、私たちアイデアプラントの発想カード製品の開発メソッドと通じるものがあります。

発想していくという複雑な思考上の営みをどんどん切り刻んでスモールステップにします。明確な作業指示1つにまで。で、発想ゲームのカードにそれらを付与します。プレイヤーは、ゲーム中、次々多様な発想行為をします。でも、使う順番を、うまくいく可能性が高くなるように与えてしまうと、お仕着せの意図のくささがでて、お遊戯みたいなしらけた感じになってしまいます。効果が発揮されません。

そこで、手札は一杯持たせておいてカードはどれを使うかは本人が自分で決められる、としたり、山札からランダムに出たりするようにして多様さとランダム要素をいれることで、発想の妙といえるようなものが沸きあがったりします。

この辺、共通したところから思いましたのは、「作業指示は単純に。しかし、自由度は大きく残しておく。というデリケートなぶったぎり方」みたいなものがもやもやしたものを伝えるときには必要なのかもしれない、と。

さて、

“「テキスト上&トーク上で提示するサンプルのレベルをクダラナイレベルにすること」。”という点、筆者が率先してクダラナイレベルを手本を示すことは、編集をへて書籍にまでなるものには少ないので、稀有な例かな、と思います。今回の発想例をテキストでもらって、それの手書き文字ページを書かせてもらい、いわばアイデアを文字通りなぞりなおしたのですが、超人的なジャンプなんてのはまったくしなくて、普通の人の普通の感覚でスイスイ展開する思考、当たり前を書き出していく、そんな風でいいんだな、と感じて筆を走らせていました。そうしてグルグル平たいところを回遊しているうちに、「あれ、ここに上にあがる梯子、ありましたね。」という感じに、突き当たって、上っていくような、そんな心象風景の浮かぶ作業でした。

周囲に誰もクリエイティブ系の発想テクニックを教えてくれる人がいない読者にとっては、筆者の筆についていくうちに、“あれ、すごいことしてないのに二階に上がれたな、いま。”と感じるでしょう。考具、をはじめて読んだときの石井の読者体験はまさにそうでした。今回の「発想法の使い方」は、イノベーションの号令がかかっている組織にいる理系の人、技術系の人が考えあぐねて「開発、アイデア、出し方」なんてググッてみた時に、突き当たって、本屋で買って帰りの電車で読み始めたら、一気に読めてしまって、「あれ、そうか、それでいいのか」+「(例えばVEとかで出てくる)属性列挙法って、けっこう簡単じゃないか」と思ってもらえるような、作品だと思います。

すぐ読める。やってみたくなる。それは、書籍が提供する価値の両輪の片方だと思うんです。もう一方は、知識内容。それはどの本も立派にある。でも、大半の本はもう片方の車輪が小さいんですよね。

さて、加藤さんのご質問に向き合います。(ここまでが長すぎましたね。)

“石井さんのWSは「ペアブレスト」から始まったりと、複数名で行うワークを通じて個人の発想力を引き出していくデザインが多い印象です。

個人とチーム、発想力の鍛え方はどうあるべきなのでしょうか? 鍛える順番ってどのように考えてらっしゃいますか?石井さんのWSは「ペアブレスト」から始まったりと、複数名で行うワークを通じて個人の発想力を引き出していくデザインが多い印象です。

個人とチーム、発想力の鍛え方はどうあるべきなのでしょうか? 鍛える順番ってどのように考えてらっしゃいますか?“

個人発想作業と複数人でやる発想作業。これはとても広がりのある話です。あらゆる発想は、個人の脳から出てくるわけで、個々人の発想エンジンが冷えたままでは集団での発想作業は、ストレスたまるばかりで益が無いです。

石井のワークでは、五分交代のペアブレスト(スピードストーミング)などを冒頭から良くやります。最近良くいろんな組織で開催されるアイデアソンで見たこと、やったことがある方も多いと思います。ああいうやり方は、実は、毎回同じではありませんで、個人の発想力が回り始めて、それから、ころあいを見て集団発想(の一形態であるペアブレスト)に入っています。

なので、個人発想作業→集団発想作業、という構造にしてあります。

一見、いきなり集団発想作業に入っているように見える場も、アイデア出しのテーマ紹介パートが大事な機能を担っています。アイデア出しのテーマを明瞭に表現し、次に、補足説明しテーマの背景や関連情報を入れてもらい、更には、アイデアフラッシュをだーっと短い時間でしゃべって、呼び水として、平易なレベルのアイデアではありますが、ひらめきの追体験を軽くしてもらって、アイデア醸成が各自の中に徐々に進むのを待ちます。それだけでは、まだ醸成度合いが足りないな、という時には、一人発想技法を短く挟んでから、集団発想フェーズに進みます。一人発想の時にはいろんな技法を使ってきたのですが、最近、ビジネスマンやエンジニアの方に発想刺激にしやすい、といわれることが多いのは、ブルートシンク、でした。本書108、109はきれいに、言葉表を見開きにまとめられていますね。これを、目をつぶってえいっと、指してもらって、元のお題と強制的に掛け算してみて、それが意味をもつとしたらどんなものだろうか、と考えてもらっています。

実はここは、もうすこし、そんなにシンプルではない展開の分岐があります。

ブルートシンクを、各人が一人で沈思黙考してやってもらう流れと、席の隣の人とペアになって、ペアでわいわいやってもらう流れに分岐します。

これは、場の様態や人々の反応の機微を感じ取って、その場で考慮して、舵きりをしています。

他者とばかばかしいことをいきなりいうのは憚られるような固い関係性の生じている状況であれば、一人でアイデア作りをしてもらいます。それを沢山作っておくと、次のペアブレストでしゃべるネタが増えていいですよ、と告げておくと、皆さん頑張って、発想技法をやってみようとします。

逆に、会社の研修などで、参加者に自由に着席してもらっていて、隣席が仲のいい人同士で座っているような場であれば、二人で発想をしてもらいます。発想技法と言うのは、普段のロジカルシンキングとはずいぶん違って、あいまいな思考のカケラをひっぱり出してきて良く見てみたり、ずらしてみたりしないといけないわけです。概念加工の柔軟さ、みたいなものが必要で、その思考負担を乗り越えるのが面倒でなかなか頭が回り始めません。でも、隣の人としゃべりながら、これはこう展開してみたらいいんじゃないか、とか、全然わけわかんないんだけど組み合わせてみたら思い浮かんじゃったのがさ、、、という会話をして、その思考のめんどくささを対人対応力に助けてもらって乗り越えていって、回転数をあげてもらう。そんな感じです。

さらにもうちょっとヒートアップを狙いたい、という時には、ペアで話し合ったそれを他のペアとくっついてもらい四人組になり、アイデアを共有しあって更に発展案を出してみる、というぐらいまでやることもあります。この辺までやると、アイデアは非常に醸成されていて、ペアブレストでは相当に具体的なアイデアに展開したりします。

ということで、発想における人々の集団をデザインするときには、一人→二人→四人、というギアのあげ方をしています。これは、ピクト図解の板橋さんが昔教えてくれて集団のデザインの仕方なんですが、ギアを挙げていくときに、よく思い出してこの工夫に助けてもらっています。

ただ、正確に言いますと、集団のサイズをあげていった後、また一人作業の状態にして沈思黙考する時間もとったり、更にチームの状態でのブレストへ展開したり、とギアを上げ下げも、よくしています。集団発想→一人発想→集団発想、という煮浸しみたいな構造をいれることで、良く沁みます。

加藤さんのご質問が、鍛える順番、とありましたがそれにまっすぐにお応えしますと、やはり石井も、個人の発想力を鍛える、が先。チームはその二番手。だと思います。ただ、少し個人の発想力があがってきてチームでの発想力が使えるようになってきたら、チームでの発想力を使って、つまり、創造的な相互関係をデザインしてやって大きな創造力を引き出していくと、個々人の能力ではなかなかたどり着かない高いレベルを体験します。そうすると、能力拡張のようなことが起こって、発想の力が以前よりももっと高くなる。そうしてまた個人技を鍛えてもらう、という感じの、能力育成観を持っています。またも車の両輪のアナロジーですが、個々の鍛えが、チームの上限を引き上げ、チームのエクセレントな仕事が個々人の能力上限を引き上げる。そういうトモツレのようなものに見ています。

お返事も非常に長くなってしまいました。恐縮です。。

さて、石井から質問です。

最近、企業さんで似た会話をしています。アイデア創出の大きな集団を形成する上で、大事なことはなんだろう、と。
典型的には次のような問いが多く見られます。
新製品アイデア創出系の活動に多様な部門から大量に人材を集めたい。候補となる人を探索する時に、何をノミネートの指標にしていくといいんでしょうか。と。

かとうさんがこの問いに、対峙したなら、どんなことをコメントされますか?

(2015年5月7日)

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石井力重さんと加藤昌治の「往復書簡」

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「発想法の使い方」の制作に一緒に携わってくれた(※)石井力重さんと、この一冊を起点にした疑問や質問をお互いにヤリトリしてみようという試み。「これだけ一緒に議論してたとしても、結構わからないことあるんでしょうね?」がキッカケです。

素直に対談、みたいなやり方もあるんだと思うのですが、今回は「往復書簡」スタイル。ヤリトリの間にある程度の時間を置き、答えあるいは応えをそれなりに推敲するーしっかり考え、考え直すーことで、当意即妙のヤリトリとはまた違う発見があると思ったからです。