往復書簡10通目

書簡 10通目 〜説明するための語彙や経験を持つ〜
from 加藤昌治

石井さま

飲んでいても、キョロキョロしている・・・。その通りです。落ち着きがないとは小学校の頃から指摘され続けていますが、40歳を過ぎているにも関わらず。そして人様の目を見て話をするのはとても苦手です。それもあってキョロキョロしているんだと思います。話をするのもそれほど積極的にやっている訳でもなく・・・ではあるんですが、「頭の中に数百人の多様な小人が居る。」のがアイデアパーソンにとってベターであることは確かです。

じゃあ、人見知りをする人はアイデアパーソンから遠いのか? と聞かれたら,「NO」ですね。わたしたちには、小説やドキュメンタリーなど文字や映像などを通じた「間接体験として、他の人を知る方法」があるからです。それも潤沢に。

ワークショップなどでは、「アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせにしか過ぎない(ジェームス・W・ヤング)」の命題に引き続いて、「既存の要素とは、直接体験と間接体験、そして知識」だとお話ししています。経験がアイデアの素になることは、多くの識者の方もおっしゃっています。

で、さらに「体験の直間比率、ゼロはよろしくないけれど、比率は人それぞれ。」が持論です。恋愛小説ばかり読んでいて、本当の恋わずらいは未経験、もよろしくないですが、一方で「恋愛小説を一冊も読んだことがなくて、失恋ばかりしている」のもどうなのよ? と考えてます(あ、失恋に限らず、幸せ続きでももちろん好いです)。
宇宙旅行に行ったことはなくても、小さい旅行の直接体験があれば、宇宙ものの映画を見ながら、「きっと●●なんだろうな〜」と疑似体験を増やしていくことができるはず。犯罪などは直接体験ゼロがお勧めですけど、間接体験だけでもある程度は「たぶん」「きっと」と想像は付きますもんね。

小説や映画が人生のすべてを語り尽くしているわけじゃありませんが、かといって直接はなせば100%掴めるのか? でもないわけで。せせこましいですが、誰かとボヤンと喋るより、優れた小説を読んだ方が「早いし深い」こともある。人見知りでも、総合体験量を増やすことは可能です。ただし、「この一冊だけを読めば/見ればOK!」という魔法はなくて、一定の「量」が必要だと思います。

と、前置きが長くなりました。

「アイデアの香り、あるいは、オーラ、のような、良く目に見えないもの、文字で書き取れるものの外にあるものをブレストの場面で伝えたい。うまいやり方はありますか?」

アイデアって、現時点では存在しない何か、なので確かに伝えるのは六つかしいですよね。正解はないと思うので、あえて簡潔に。

0)前提として、少なくとも自分の脳裏では「ビジュアライズ」できている
自分がイメージできてないモノは方法はどうあれ、説明できません。完璧である必要は無く、アイデアの核になる部分だけでも。背景はまだぼやけててOK。

1)比喩(直喩・暗喩)
「○○○みたいな〜」など。香りやオーラが近い言葉(○○○)を発見できるかどうか、がポイント。暗喩だとわかりにくくなりそうなので、直喩の方が理解も早いでしょうか。

2)たとえ話
既存事例の換骨奪胎≒ヨコ展開でもありますので、比喩ほどズバッと云い切らなくも通用しやすいかも。「△△界の、ほにゃらら、みたいな」とか。持ち出した事例や表記を共有できないと、サッパリわけが分からないママになるのが難点。相手によって「たとえを変えられる」バリエーションが自分にあるか?

3)絵に起こす
要・絵心なのがネックですが・・・。すぐプロトタイプを作ってしまおう、のデザインシンキングもこの系統でしょうか。

4)写真を見せる
たとえ話のビジュアル版。検索してもなかなか「コレっ!」ってのは見つからないもので、無理に使うと、ややこしくなるケースもあります。

そして、荒技ですが

5)場所を移す
上記1−4のリアル版、といいますか。自分のイメージに近い場所、イメージを譬えられるお店や現場へ、物理的にみんなを連れて行ってしまう。

なんてところでしょうか。アイデアの多くは人との会話や対話の中で生じるでしょうし、アイデアスケッチに落とすにしても、やはり言葉に頼る部分が大きくなってしまいます。その時に自分の中にどれだけ「説明するための語彙や経験」があるか? に結実されちゃうんじゃないですかね〜。これもまた母数を増やしておくことが、急がば回れですが最短なのかしら、と思う次第です。

さて。お返しにお尋ねしたいのは、冒頭に立てた、「直接体験と間接体験の比率」がらみにて。
アイデアパーソンになるためには、やっぱり人と喋らないとダメですかしら? デジタル自体の昨今、絵文字的なアイテムを含めて「文字で会話」する機会がかなり増えてきました。これはおしゃべりなんでしょうか???

梅雨の季節になりました。
雨が降ると腰が痛くなる方もいらっしゃいます。

移動の多い石井さんもご自愛ください。

6月29日
かとうまさはる 拝

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石井力重さんと加藤昌治の「往復書簡」

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「発想法の使い方」の制作に一緒に携わってくれた(※)石井力重さんと、この一冊を起点にした疑問や質問をお互いにヤリトリしてみようという試み。「これだけ一緒に議論してたとしても、結構わからないことあるんでしょうね?」がキッカケです。

素直に対談、みたいなやり方もあるんだと思うのですが、今回は「往復書簡」スタイル。ヤリトリの間にある程度の時間を置き、答えあるいは応えをそれなりに推敲するーしっかり考え、考え直すーことで、当意即妙のヤリトリとはまた違う発見があると思ったからです。